深入山 4月
アケボノスミレの咲く頃
2022.04.23
表紙絵 アケボノスミレ
私の花行動の記録を見ると、今までに深入山を訪れたのは12回にもなるが、その11回は8、9、10月なのです。確かにこの季節には、ムラサキセンブリやリンドウをはじめ、アキノキリンソウ、ママコナ(3種)、キキョウ、ホクチアザミ、アキチョウジ、ウメバチソウ、アクシバ(果実)、ハバヤマボクチ等々とすぐに頭に浮かぶものがいくつもあります。しかし、4、5、6、7月にはどんな植物があるんだろうと考えたりもしていました。そこで、今年は4、5、6、7月に各1回は訪れて植物観察をしてみようと考えたわけです。体力、気力も衰えているのを自覚しながらの計画です。さてさて、どうなることやら、です。
当山では、毎年4月中旬の日曜日に山焼きがあることも知らずに、「新芽が吹き出て青々とした草原」を想像しながら現地に到着。山焼き、野焼きの意義は一定の理解はしているものの、この光景に愕然とする。
山行、植物観察に事前調査もせずにのんきにやってきたことを後悔する。「これじゃぁなぁ。もう帰ろう。」という気持ちをやっとおさえて、とにかく山頂まで行くことに。登山は、ついつい早足になる。
写真くらいの長さのワラビが点々と生えていた。この採取が目的の方も何人かいたようだ。
何。ノギラン?、ショウジョウバカマ?元の根生葉は焼けてしまって、新芽が吹き出ている。
ショウジョウバカマ。葉は焼け焦げている。花茎はその後に伸びたのだろうか。写真の中の4点に次の命が芽吹いているのが見える。
花茎も花も新鮮であった。しかし、見るには痛々しい。
メランチュウム科 ショウジョウバカマ属
焼け跡の際(きわ)に一点。距と葉の形からシハイスミレと思われる。
イワカガミ。葉は火熱で生焼きのよう。その花茎の先に膨らみかけた蕾。
赤茶けたクロマツに「これは大変」と近寄って見たら、次の写真のようだった。これで結構生き残れるのだろう。
遠く写真中央にクロマツの成木。最上部の方まで焦げている。
山頂までの礫地は山焼きの影響も少なかったようです。
雌雄別株。葉の展開と同時に開花する。雄花序は長さ2.5〜5㎝で無柄。雄しべが1個のものと2個のものが混在する。花糸は離生または途中まで合着する。基部には腺体が1個ある。葯は黄色。
雌花序は長さ3〜5㎝。子房には柄があり、白い綿毛が密生する。
ここまできてホッとする。撮影する花もなく足早に歩いてきたためか、疲れがドッとくる。
ヤマヤナギ。礫地や崖地傾斜地などでは高さ1~2mほどだが、当地のように立地がいいと3~4mになる。穂花序はひとつひとつが大きく数も多く全体の見栄えがいい。花の黄色でまわりが明るくなり、先ほどまでの気分は一変する。観察モードに入る。
雌雄異株。花期は3~4月。葉の展開と同時に小枝の節に淡い黄緑色の花を咲かせる。花は葉腋から出た散形花序を付け、小さな6弁花を多数開く。雄株の雄花には9個の雄しべ、雌株の雌花には9個の仮雄しべと雌しべ1個(子房)がある。この季節クロモジの花に出会うのも楽しみのひとつ。見た範囲では雄株の方がかなり多いように思う。
樹高は80㎝ほどで、葉身が長さ3~9㎝の倒卵形~倒披針形で、先端はやや鋭く基部はやや細くなって葉柄状であることから、ヘビノボラズとしたが、分布域が中部地方西南部~近畿地方と九州ということで、みごとに中国地方はぬけていて自信を持って同定したことにはならない。別にヒロハヘビノボラズがあるが、樹高は3mにもなるので、それには該当しないと思う。
花期は3月頃。葉が出る前に花を開く。雌雄同株、雌雄異花で、雄花序は、枝の先の方に1~5個付き、開花すると下垂する尾状花序である。雄花序より下の芽である雌花序は小さく直立または斜立する穂状花序で、一つの芽から1~2個付ける。分布域からヤシャブシと同定したが、雄花序はすでに落下していて位置が分からず、正確には同定出来ない。【自信度★★☆☆☆】くらいかしら。
ツツジ科 アセビ属
花期は2~4月。枝先に10㎝ほどの複総状の花序を垂らし、長さ5㎜ ほどの白い壷状の花を多数咲かせる。雄しべは10本で、2個の角を持ち毛深い。
リョウブ科 リョウブ属
葉は長さ10㎝ほどで倒卵形に近い楕円形。縁には細かい鋸歯がある。表面はつやがない。枝先にらせん状に付くが、枝先にまとまる傾向が強い。花は夏に咲き花弁は白く5裂する。枝先の長い総状花序に多数の花を付けよく目立つ。
雌株の雌花で、9個の仮雄しべと雌しべ1個(子房)が確認できる。個体数は少ない。
シハイスミレは名前のとおり葉の裏が紫色を帯びるのが特徴だが、➀その濃淡には差異が見られ、➁またヒナスミレやフモトスミレ等同様の特徴を持っているものもある。変種のマキノスミレ(東日本に多い)を含めて変異が多様で、細かな区分には大変苦慮する。
シハイスミレ type1
葉が長卵~披針形。花弁の色は淡紅紫~濃紅紫色の中間くらい。唇弁の奥の白色が強く、縦に伸びる紫色の筋がよく目立つ。唇弁の距の色は花弁と同じかやや薄い程度である。葉は水平より立気味になるものが目立つ。個体数としたら一番多いように思う。標準タイプと言えばいいのかな。
シハイスミレ type2
type1に似て、花色は中間的だが全体的に透明感がある。各弁(唇弁 側弁 上弁)の上部(先)の色がやや淡く下部(付け根)の色が濃く、全体的には花の中心部が輪になって濃く見える。何よりも唇弁の距が白いということでひとつタイプとした。
シハイスミレ type3
type2に似て、花色は中間的で各花弁の株が濃く全体的に中心部がわになて濃く見える。唇弁の距は花色と同じかやや濃い。葉の展開が他のものと比べて遅いものが多い。
シハイスミレ type4
type1よりさらに花色が淡い(薄い)タイプ。淡紅紫色から白色に近い。唇弁の距も花弁とほぼ同じ色である。図鑑(いがりまさし)ではこの色合いのものを【・・シハイスミレの準白花品・・】として書いている。
シハイスミレ type5
このスミレを見た時には、➀葉が大きいし、➁群生しているし、➂何よりも葉裏の紫色が薄いため、シハイスミレとは思いつかなかった。同定に困ったが、図鑑(同)の【・葉の幅が広いタイプ・】と記載されているものと似ていることが分かった。それでも、type4までのものとは雰囲気が異なるので、自信度は【★★☆☆☆】の気持ちで掲載する。
シハイスミレ type6
その他、濃紅紫色のもの。色の濃淡は光の加減等で変わるので、タイプとしてまとめるのは難しいようだ。
日本で、ごく身近に見られるスミレ類の一つで、丸い葉と立ち上がる茎が特徴。葉身は心形。葉にはあまり艶はない。花期は3~5月。花茎は葉の間から出て立ち上がり、先端がうつむいて花を付ける。花は典型的なスミレの花の形で丸っこく、花色は薄い紫が多い。
全国に分布。適応範囲は広く海岸沿い~亜高山の日当たりのよい所に生育する。タチツボスミレの品種。花弁が白色で、距はやや細長く紫色が残るもの。まれに見られる。
【参考】オトメスミレに似て、距まで白色のものをシロバナタチツボスミレという。オトメスミレよりさらに個体数は少ないとされている。当地では見つけることが出来なかった。
タチツボスミレに似て全体が小さい。高さ5〜10㎝。茎はやや倒れ気味。葉は三角形、長さ幅とも1〜2㎝で縁に鋸歯がある。基部は切形。葉脈が不明瞭。花は淡紫~白色。1.5㎝と小さいが、花弁の幅は広く、唇弁は紫色の条がある。分布は西日本の日本海側。県内では瀬戸内側に広く分布。高所の乾いた所で見る。花期は4〜5月。
葉の裏面は紫色を帯びる。葉柄は2~5㎝と長い。花は白色で径7~10㎜と小さく、上弁は反り返る。側弁にはふつう毛があり、まれに無毛。
唇弁の基部に短い毛がある。唇弁は他の弁より短く、幅が狭く、紫色の条が入る。距は2~3㎜。花柄は高さ4~7㎝。距や花柄は紫色を帯びる。萼片は広披針形。花期は4~5月。
葉の展開は遅く、花期には全く葉がないように見える個体もある。
葉は花時には展開せず内側に巻き込みんで菱形になり、花後に展開する。花後の葉身はやや質が厚く、卵状心形で、長さ4-12cm、先は漸尖形、基部は深い心形、縁には円い鋸歯がある。葉の表面は鮮緑色。
花期は3~5月。展開する前の葉間から花柄を伸ばし花を付ける。花柄は長さ10~15㎝。花は径2~2.5㎝、紅紫~淡紅紫色。花弁は長さ15~20㎜、先端は円い。唇弁の距は短く長さ3~4㎜でぼってりしている。萼片は長楕円状披針形で、その後部の付属体は全縁か浅く2裂する。
北海道と本州、四国の山地に生え、高さ5〜15㎝になる。葉は対生し3〜4対あり、長さ1〜2㎝の葉柄をもち、長倒卵形で長さ2〜6㎝、幅1〜3㎝。粗い鈍頭の鋸歯がある。表面は脈に沿ってふつう紫色になり、裏面は紫色を帯びる。花期は4〜5月。上部の葉腋に淡紫色の唇形花を数個付ける。花冠は長さ1.1〜1.3㎝、筒部は細長く、先は上唇と下唇に分かれる。上唇は2裂して小さく、下唇は大型で3裂する。雄しべは4個あり、うち2個が長い。萼は長さ6mmほど、5裂し、毛がある。
シソ科 キランソウ属
日本海側に分布し、全体に色が淡い白花品種のことをシロバナニシキゴロモと言って区別することがある。
当地ではナガバモミジイチゴの花の盛期だったのだろうと思う。すべてが全開。しかも花に傷みもない。
花期は4~6月。白色の小さな両性花のまわりに大きな5枚の花弁を持つ装飾花が縁どる。また花序の基部に柄が発達せず、葉腋から直接でるのも特徴である。夏に赤い果実を付け、秋には黒色に熟す。野鳥が熟した果実を食べるため、冬には残らない。葉は円形で葉の先端は尖り全縁になる。葉脈がシワ状に目立ち、また、形が亀の甲羅に似ている。
花期は3末~ 4月。紅紫~淡紫色の花が多数咲き、里山の羽春を彩る。花は3~4㎝。花粉が細い糸でつながった構造をしており、昆虫の体に付着しやすくなっている。また、1本の雌しべの回りを取り囲むように10本の雄しべがある。花芽からおおむね1つの花が咲く。刈り込んだ後の萌芽力が強くて、日当たりが良い場所では花付きが良い。
ここからまた山焼きの風景が広がる。南口分岐から南登山口へ下る。
ヨーロッパ原産。多年草。明治時代に渡来し、現在では都市周辺でもっともふつうのタンポポになっている。葉の裂け方は変化が多く、一定していない。花期は3〜9月。頭花は径3.5〜5㎝。総苞外片がつぼみのときから反り返っているのが特徴。北海道のものは葉が厚く、花も大きい。頭花はすべて両性の舌状花からなる。舌状花の先端には5歯がある。そう果は灰褐色。よく似た、やはり外来種のアカミタンポポがある。
スミレ科 スミレ属
スミレ(菫)は、スミレ科スミレ属の総称であるが、狭義には、ひとつの種の和名である。平地から山間部の道端や、都会ではコンクリートのひび割れ等からも顔を出す。葉は根際から多数出る。少し長めの葉柄があって、矢じり形で丸みのあるはを付ける。
東登山口に歩いて向かう道路の法面ぎりぎりまで、山焼きの火は燃え広がってきたようです。猩々の袴は火熱に痛めつけられたようです。しかし、しっかりと花茎を伸ばして花を咲かせているのですごいと思う。